「手付金の支払いっていつすればいいの?」
「万が一、売主が倒産したら手付金は返ってくるの?」
「保全措置って宅建試験でよく出るけど、実務ではどう使うの?」
そんな疑問を持つ方も多いでしょう。
手付金の扱い方や保全措置の有無で、契約の安全性が大きく変わります。宅建試験でも頻出する分野であるうえに、実務でトラブルを防ぐためにも重要なポイントです。
そこで本記事では、手付金等の保全措置とは何か、支払時期や費用、種類などを実務レベルで解説します。
また、保全措置が不要なケースや宅建試験の予想問題についても紹介するため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
不動産取引における「手付金」とは?

手付金とは、不動産の売買契約が成立したときに買主が売主へ支払う金銭のことです。
契約が確実に履行されることを担保し、また一定の条件下で契約を解除する権利の裏付けとなる重要な役割を果たします。
また、手付金には「解約手付」「違約手付」「証約手付」という3つの種類があり、それぞれ異なる目的で用いられます。ここからは、手付金の3つの性質について詳しく解説していきます。
1.解約手付
解約手付は、契約を解除する権利を担保するための手付金です。
民法第557条第1項によれば、相手方が契約の履行に着手する前であれば、買主は手付金を放棄することで、売主は手付金の倍額を返還することで、それぞれ一方的に契約を解除できます。
たとえば、買主が3,000万円のマンションを購入する際に300万円の手付金を支払ったとします。
その後、転勤などの事情で購入を取りやめたい場合、売主がまだ引渡しの準備などの履行に着手していなければ、買主は300万円を放棄することで契約から離脱できます。
逆に売主側の事情で契約を解除したい場合は、受け取った300万円に加えてさらに300万円、合計600万円を買主に支払う必要があります。
解約手付があることで、双方が安易に契約を破棄することを抑制し、取引の安定性が保たれています。また、解約手付は実務上最も頻繁に用いられる手付の一つです。
2.違約手付
違約手付は、契約当事者のいずれかが債務不履行に陥った場合に、損害賠償額の予定または違約罰として機能する手付金です。
解約手付とは異なり、正当な理由のない契約違反があったときに没収または倍返しの対象となります。双方が契約違反をした場合の責任範囲を事前に明確化することが目的です。
たとえば、買主が残代金の支払期日を守らず大幅に遅延した場合、売主は違約手付として受け取った手付金を没収できます。
また、売主が正当な理由なく物件の引渡しを拒否した場合には、買主に対して手付金の倍額を支払う義務が生じます。
違約手付は解約手付のような自由な解除権を認めるものではなく、あくまで契約違反に対するペナルティとしての性質を持っています。
実務では解約手付と違約手付の両方の性質を併せ持つ手付金として扱われることが一般的です。
3.証約手付
証約手付は、古くからある手付の概念で、契約書などの書面が整備されていなかった時代に契約の成立を証明する手段として重要な役割を果たしていました。
解約手付のような契約解除の目的はなく、単に契約が成立したという事実と当事者の契約意思を確認するために用いられます。
現代の不動産取引では比較的稀な形態ですが、理論上は存在する概念です。
たとえば、土地の売買契約において売主と買主が10万円を証約手付として授受したとします。
この場合、10万円は契約成立の証明として機能しますが、それ自体に解除権や違約罰としての効力はありません。
現在では売買契約書が詳細に作成されるため、証約手付単独での利用は少なく、実務上は解約手付や違約手付の性質を併せ持つ形で運用されています。
不動産取引における手付金の費用

手付金の金額は、一般的に売買代金の5%から10%程度が相場となっています。
たとえば、3,000万円の新築マンションであれば、150万円から300万円程度を手付金として設定するケースが多く見られます。
高額な物件になると手付金も比例して高額となり、1億円の物件では500万円から1,000万円、場合によってはそれ以上となることもあります。
ただし、国土交通省の指針では過大な手付金の徴収を禁止する規定が設けられています。手付金が高額すぎると、買主が契約を解除したい場合に経済的な損失が大きくなりすぎるためです。
とくに宅建業者が売主となる場合、手付金は売買代金の20%を超えてはならないという制限もあります。
実務では、買主の資金計画や物件の価格帯、市場の慣習などを総合的に考慮して適切な手付金額が設定されます。
参照:①手付金等保管制度とは|公益社団法人 全国宅地建物取引業保証協会
不動産取引における手付金の支払時期

手付金は、売買契約書を締結する当日に現金または振込で支払うのが原則です。
契約書に署名・押印を行うと同時に、買主から売主へ手付金が交付されることで、契約が正式に成立します。この時点で双方に契約上の権利と義務が発生し、法的な拘束力が生じます。
注意すべき点として、契約成立前に交付される「仮手付」や「申込証拠金」は、法的には正式な手付金としての効力を持ちません。
これらはあくまで購入希望の意思表示として一時的に預けるものであり、正式契約に至らなければ返還されるのが通常です。
たとえば、新築マンションのモデルルームで購入を検討する際、10万円程度の申込証拠金を支払うことがありますが、これは正式な手付金ではありません。
実際の手付金は、重要事項説明を受け、契約書の内容を確認した上で、契約日当日に支払います。
手付金等の保全措置とは?

手付金等の保全措置とは、万が一売主である宅建業者が倒産した場合でも、買主が支払った手付金や中間金が確実に返還されるよう保護するための制度です。
宅建業法第41条に基づき、売買代金の10%を超える額または1,000万円を超える額を受領する取引では宅建業者に保全措置の実施が義務付けられています。
ここからは、手付金等の保全措置についての概要や保全方法、物件の判断基準について解説していきます。
1.手付金等の保全措置の概要
手付金等の保全措置は、売主である宅建業者が倒産したり、未完成物件が完成しないまま引渡しができなくなったりした場合に、買主を保護することを目的としています。
宅建業者は、指定された保証機関との契約や保険への加入を通じて、買主に支払われた金銭の返還を保証します。
たとえば、建築中の新築マンションを購入する契約を結び、手付金500万円を支払った後に販売業者が破産したとします。
保全措置が適切に講じられていれば、買主は保証機関や保険会社から500万円全額の返還を受けることができます。
一方で、全措置を講じずに手付金等を受領した宅建業者は、宅建業法違反として業務停止などの行政処分の対象となります。
とくに未完成物件の場合、引渡しまでの期間が長く、その間に業者が経営破綻するリスクあるため、保全措置の重要性は一層高いと言えるでしょう。
2.手付金等の保全方法
手付金等の保全方法には、以下の3つの種類があります。
1.保証委託契約
2.保証保険契約
3.手付金等寄託契約及び質権設定契約
保証委託契約は、宅建業者が銀行などの金融機関と保証委託契約を結び、業者が倒産した場合に保証機関が買主へ手付金等を返還する方法です。
保証保険契約は、宅建業者が保険会社と契約を締結し、保険事故が発生した際に保険金として買主へ支払われる仕組みです。
手付金等寄託契約及び質権設定契約は、完成物件の場合にのみ利用できる方法で、国土交通大臣が指定する保管機関に手付金等を預け、その返還請求権に質権を設定することで保全します。
買主としては、契約時に保全措置の内容を確認し、保証書・保険証券・寄託証書のいずれかの交付を受けることが重要です。
どの方法を選択するかは売主である宅建業者が決定しますが、いずれも買主保護という目的は同じです。
3.手付金等の保全措置が不要なケース
手付金等の保全措置は、宅建業者が売主となるすべての不動産取引で義務付けられているわけではありません。
具体的には、次のいずれかに該当するとき、保全措置は不要です。
| 区分 | 保全措置が不要となる条件 |
|---|---|
| 未完成物件 | 手付金等の額が売買代金の5%以下かつ1,000万円以下 |
| 完成物件 | 手付金等の額が売買代金の10%以下かつ1,000万円以下 |
| 共通条件 | 手付金の受領前に買主へ所有権移転登記が完了している場合 |
たとえば、3,000万円の新築戸建に手付金200万円を支払う場合、200万円は約6.7%であり、10%以下かつ1,000万円以下のため保全措置は不要です。
一方で、同物件に400万円(約13%)を支払う場合は10%を超えるため、保全措置が必要になります。
また、売主が課税事業者である場合は、消費税込みの売買代金に基づいてこの上限を判断します。
4.未完成物件と完成物件の判定基準
手付金等の保全措置のが必要かどうかを判断する上で、物件が「未完成物件」か「完成物件」かの区別は非常に重要です。
判定基準は、その物件が引渡し可能な状態にあるかどうかという点にあります。
たとえば、建物の基礎、屋根、外壁などの主要構造部分が完成しておらず、買主に引き渡せる状態になければ「未完成物件」として扱われます。
一方、既に建築が完了し、検査済証も取得済みで即座に引渡し可能な状態であれば「完成物件」と判定されます。
建築途中の戸建住宅やマンションを販売する場合は、引き渡されるまでの期間が長く、その間に業者が倒産するリスクがあるため、より厳格な保全措置が求められます。
実務では、建築確認検査の完了や登記の状況なども含めて総合的に判断されますが、基本的には引渡し可能かどうかが決定的な判断基準となります。
手付金等の保全措置に関する予想問題

宅建試験では、手付金等の保全措置に関する問題が頻繁に出題されます。
ここでは、試験でよく問われる重要なポイントを予想問題形式で解説します。
【問題】
宅地建物取引業者Aが、自ら売主として、宅地建物取引業者ではない個人Bと間で、土地付建物を4,000万円で売却する売買契約を締結する場合、手付金等の保全措置に関する次の記述のうち正しいもはどれか。
1.Aが保全措置を講じずにBから手付金100万円を受領する場合、その旨を重要事項説明書に記載する必要があるが、法第37条の規定により交付する書面に記載する必要はない。
2.当該建物が建築工事完了後の建物である場合、AはBから手付金100万円を受領しても保全措置は不要であるが、その後、中間金400万円を受領する際は、手付金100万円と合わせて保全措置を講じた後でなければ受領できない。
3.当該建物が建築工事完了前の建物である場合、Aは保全措置を講じなくてもBから手付金300万円を受領できる。
4.Aが中間金2,000万円について保全措置を講じていないときは、Bはその支払いを拒むことはできない。
【回答】
1.×
2.○
3.×
4.×
手付金の周辺知識を頭に入れて宅建合格へ!

手付金に関する知識は、宅建試験において頻出の重要分野であると同時に、実務でも日常的に扱う必須知識です。
とくに解約手付は、相手方の履行着手前であれば契約解除が可能という点で実務上最も重要です。
また、手付金等の保全措置については、未完成物件か完成物件か、手付金が代金の10%(または5%)超または1,000万円超かという判断基準を正確に把握しましょう。
手付金の周辺知識をしっかりと頭に入れて、宅建試験合格を目指してください。

